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東京高等裁判所 昭和28年(ネ)306号 判決 1955年6月23日

控訴人 株式会社グラハン本舗 外七名

被控訴人 国 外五名

訴訟代理人 田中勝次郎 外一名

主文

本件各控訴を棄却する。

控訴費用は夫々その控訴人の負担とする。

事実

控訴人等の訴訟代理人は原判決を取消す、被控訴人品川税務署長が控訴人株式会社グラハン本舗及び日高新七に対し、被控訴人大森税務署長が控訴人渡辺産業株式会社及び江沢秀雄に対し、被控訴人蒲田税務署長が控訴人川部嘉市に対し、被控訴人世田谷税務署長が控訴人有限会社芹沢製作所及び立松一太郎に対し、被控訴人墨田税務署長が控訴人株式会社山田製作所に対し、それぞれなした原判決添付の別表第一及び第二欄記載の物品税賦課処分が無効であることを確認する。被控訴人国は控訴人株式会社グラハン本舗に対し金二百二十四万四千九百二十円、控訴人江沢秀雄に対し金一万九千二百円、控訴人川部嘉市に対し金九万九千六百四十円、控訴人株式会社山田製作所に対し金一万七千九百八十円を支払うべし、訴訟費用は第一、二審共被控訴人等の負担とする。との判決を求め、被控訴人等の代理人は本件名控訴を棄却するとの判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張及び立証は控訴代理人に於て物品税法は昭和十五年法律第四〇号として同年三月二十九日に公布せられ遊戯具が同法による課税物品とされたのは同法の第一回の改正なる昭和十六年法律第八八号酒税等の増徴に関する法律第四条によつたからであり、その後物品税法は殆んど毎年改正されて来たのであるが、之等の改正により物品税の本質が消費税たることから漸次いわゆる流通税的色彩を濃くして来たものであるとしても、遊戯具が物品税の課税対象とされるに至つた前記昭和十六年当時に於ては物品税は未だ多分に消費税たる性質を帯びていたものと解さなければならない。而して物品税法自体にもその施行細則にもパチンコ球遊器が遊戯具に属することを示唆する何等の規定もなく、課税庁たる税務署もパチンコ球遊器が遊戯具に属さない非課税物品として取扱い昭和二十六年三月の東京国税局長の通牒がなされ、又同年十月の国税庁長官の通達が発せられる迄何等の措置もとられなかつたのであり、従つてパチンコ球遊器の商品学的性質が資本的消費を目的とする物品である限り前記物品税法の累次の課税品目の拡大によつて流通税たる色彩が濃くなつたからと言つて従来遊戯具とされていなかつたパチンコ球遊器が遊戯具に属すると解することは法の安定を害するものであつてパチンコ球遊器を物品税の課税対象とする立法的措置がとられない現在許さるべきではない。然るに前記の通り昭和二十六年に至つて突如として被控訴人等がパチンコ球遊器が遊戯具に属するとの解釈をとり本件課税処分をしたことは法律解釈の名をかりて法律によらずして新課税をするものであつて、憲法に違反する無効のものである。尚昭和二十五年五月から昭和二十六年二月までの間に東京都墨田区向島洲崎町三一二寒河江興世の申告に基ずき同人に対して被控訴人墨田税務署長がパチンコ球遊器に対する物品税を課していたとの後記被控訴人等の主張に対し仮りに右寒河江興世に対する課税の事実があつたとしても、東京都だけを例にとつてもパチンコ営業は打球業者昭和二十二年度は約三百軒、昭和二十三年は約千二百軒、昭和二十四年度は約干五百軒、昭和二十五年度は約千軒あり、之をパチンコ台数に換算すれば一軒平均三十台としても六千台乃至三万台に及んでおり、之等数量の大部分に対し物品税が賦課されていないことを以て被控訴人等主張のように単なる課税洩れであるとすることは到底許さるべきものでなく、右寒河江興世に対する課税の事実は被控訴人等の反駁の論拠とするに足りないものである。と述べ、当審に於ける鑑定人武田隆夫の鑑定の結果を援用し、被控訴人等の代理人に於て東京国税局管下の墨田税務署に於て昭和二十五年五月より昭和二十六年二月迄の間毎月東京都墨田区向島洲崎町三一二寒河江興世の申告に基ずきパチンコ球遊器に対し物品税を賦課していた外、名古屋国税局管下名古屋市内の各税務署に於ても昭和二十五年六月以降パチンコ球遊器に物品税を賦課していたことがあり、従つて控訴人等の昭和二十六年三月及び同年十月の東京国税局長及び国税庁長官の通達又は通牒が出されるまでパチンコ球遊器に対し物品税賦課の措置をとらなかつたとの主張は事実に反するものであつて失当である。又仮に右通達前に課税されなかつた事実があるとしても、右は課税洩れに過ぎないのであり、之が為本件課税が不当とさるべきではない。と述べ、当審に於ける鑑定人武田隆夫の鑑定の結果を援用した外、原判決事実摘示と同一であるから之を引用する。

理由

控訴人等の本訴請求は左の事項を附加する外、原判決に記載してあると同一理由により失当であるから、右原判決の理由を引用して右請求を排斥した原判決を相当とした。右附加事項は即ち、

当審鑑定人武田隆夫の鑑定の結果によれば、現行物品税は物品税法が施行された当初(昭和四年四月一日)消費税として出発したものであつたとしても、その後次第に生活必需品その他いわゆる資本的消費にあてられるべきものがその課税品目に加えられて来た結果流通税たる色彩を濃くするに至つていること、而して消費税は本来主としていわゆる消費的消費財を課税客体とすべきものであつて、純然たる資本的消費財をその課税客体とすることは妥当ではないけれども、消費的消費財と資本的消費財との区別は、その物品固有の自然的性質による絶対的のものではなく、その物品の社会的経済的使用乃至利用方法如何による相対的のものであるから消費税の課税客体として純然たる消費的消費財のみを選定することは不可能であり、従つてその課税客体としては物品の性質、その生産の方法、社会の慣習等から見て主としていわゆる消費的消費に充てられるものを選定することが本来相当であるけれども、必ずしもこのようなものに限定されず、いわゆる生産的又は資本的消費財たり得る物品も又消費税の課税客体となり得ないわけではないこと、を認定することができ、以上認定したところに徴し、且パチンコ球遊器が現在一般的に主として営業用に使用されているけれども娯楽品としていわゆる自家用にも使用され得るものと解せられることに鑑みれば、パチンコ球遊器が本来消費税の課税客体とすることが相当でないものとし難く、又パチンコ球遊器が流通税の課税客体たり得ること勿論であると解すべきであるから、現行物品税がその本質上消費税であると流通税であるとを問わず、パチンコ球遊器をその課税客体となし得るものと解さなければならない。従つて以上の解釈に従つても本件課税処分は控訴人等が当審に於て主張するように違法なものとし難く、控訴人等が当審に於て主張する物品税法が当初多分に消費税たる性質を帯びており、その後同法自体及びその施行細則にパチンコ球遊器が遊戯具に属することを示唆した規定もなく、又控訴人等主張の東京国税局長の通達及び国税庁長官の通牒のある迄税務署がパチンコ球遊器につき物品税賦課の措置をとらなかつたと言うことは敍上の解釈を左右するものではない。

と言うことである。

然らば本件控訴は理由のないものであるから、民事訴訟法第三百八十四条、第八十九条、第九十五条を適用して主文の通り判決した。

(裁判官 原増司 高井常太郎)

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